はじめに
多くの起業家・個人事業主の方が、確定申告の時期になると、積み上がったレシートを前にあわてていたり、貸借対照表の数値とあわないと困っている状況があります。
これはそもそも、仕分けのルールを理解しようとしていないこともありますが、大まかな流れが意識できていない事があると想います。
そこで私の経験からこういう手順で進めていくとスムーズにいくよ、というざっくりとした理解でざっくりとした流れをGiveしたいと想います。
この記事の対象は、なにかご自身の知識や経験で指導する、コンサル型の個人起業で、ITにある程度慣れていて、かつ、簿記を学ぶつもりのある、自分で検索して理解を深めていける方です。
①事業支出を把握する
最初に、事業支出を把握しましょう。あなたがクレジットカードをクラウド会計ソフトに連携させているなら、未仕分けの支出の一覧を見ることができるはずです。
これで、自分はどういう事業支出をしているのか、プライベートではどういう支出をしているのか、さっと目を通しましょう。

②勘定科目を決める
次に行うことは、仕分けの基本的な理解をしたうえで、どの事業支出はなんの勘定科目なのか、それを大方決めていきます。特段の店舗や仕入れをもたない個人のビジネスの場合には、だいたい以下の勘定科目が使われるでしょう。当てはまらないものがあったら、都度、インターネットで検索してみてください。
仕分けの基本的な理解
下記のマネーフォワードの記事でざっと理解してください。
https://biz.moneyforward.com/accounting/basic/102/
あまり理屈で止まらずに、ある程度理解したら、実践をしていくのが近道です。ちなみに、マネーフォワードをお使いなら、その公式ガイドが全体的に、めちゃくちゃわかりやすいです。マネーフォワードで仕分けをしていく方はぜひ取り寄せましょう。

●貸借対照表(バランスシート)
(1)資産の部
こちらの増加は借り方(左側)記載。減少は貸し方(右側)記載です。
e.g. 20万円の売上が立ったが、入金は10日後といわれた。
売掛金 20万円 売上高 20万円
後日、普通預金に入金があった。
普通預金 20万円 売掛金 20万円
- 現金:その名の通り現金です。財布の中のお金など。あまり金額は大きくならないでしょう。
- 当座預金:事業用に使っている口座などのことをいいます。
- 普通預金:事業用ではない口座のことをいいます。私はこれも事業用とみなして扱いました。
- 未収金:たとえば、ペイパルに残っているお金などは未収金とします。
- 売掛金:売り上げたけれどもまだ回収できていない部分ですね。
- 事業主貸:プライベートの支出(チョコを買う)をカードでした場合、事業主貸として、経費を立てます。
事業主貸 100円 未払金 100円
と仕分けします。
ビジネスが個人に貸している、と考え、勘定科目としては”資産”(の増加は借り方に)と捉えているのですね。
(2)負債の部
こちらの増加は貸し方記載。減少は借り方記載です。
e.g. クレジットカードで3万円のネット広告のプランを購入した。
広告宣伝費 3万円 未払金 3万円
その後、当座預金から引き落としがあった。
未払金 3万円 当座預金 3万円
- 借入金:その名の通り、借入を行ったとき。
- 未払金:翌月に支払がある、という場合ですね。カードの仕分けに使います。
- 事業主借:事業とは関係のない収入があった場合。
ビジネスが個人に借りている、と考え、勘定科目としては”負債”(の増加は貸し方に)と捉えているわけです。
(3)資本の部
元入金は、期首にクラウド会計ソフトに入力するのが大事になります。所得金額は仕分けの結果なので、あまり気にする必要はありません。
- 元入金:前記から引き継がれたお金です。
- 青色申告特別控除前の所得金額:これは今期の収益と経費の差分。どれだけ利益をあげたか、ということを表します。
ざっくり、このくらいでしょう。
●損益計算書(PL)
(1)収入
こちらの増加は貸し方記載。減少は借り方記載です。
e.g. 売上の10,000円が普通預金に振り込まれた。
普通預金 10,000円 売上高 10,000円
- 売上高:事業であげた収益。
- 雑収入
(2)経費
こちらの項目は、増加したときは借り方記載。減少したときは貸し方記載です。
e.g. 現金でインクカートレッジを買った。
消耗品費 3000円 現金 3000円 摘要:インク
たくさんあるので、どういうものがどういう勘定科目にあたるのかはネットで検索して調べてみてください。
- 租税公課
- 水道光熱費
- 旅費交通費
- 通信費
- 広告宣伝費
- 接待交際費
- 損害保険料
- 修繕費
- 消耗品費
- 外注工賃
- 地代家賃
- 研究開発費
- 会議費
- リース料
- 研修採用費
- 支払手数料
- 諸会費
経費については、上記が代表例です。
ここにないものでも、クラウド会計で勘定科目を追加することができるので、必要なら追加して、どんどん振り分けていけばよいと思います。
ただし、確定申告をeTaxでする場合、欄に限りがあるので、多くとも上記の個数で収めるのをおすすめします。
③前年度の資産、負債、資本を入力(バランスシートの出発点の設定)
今期の仕分けをスタートする前に、もちろん資産のスタート時点(1月1日の時点のスナップショット)を入力しておく必要があります。
そこに取引の仕分けを通じて、資産の変動や収支の動きを記録していくのです。
ちなみに、そのスタートの入力方法は、先程のマネーフォワードの公式ガイドp.78にのっとれば非常に簡単。2018年12/31、つまり、前期終了時点の資産、負債、資本を入力するだけ。
前記も青色申告の確定申告を行っている方は、その数字を移すだけで完成します。


※前記も確定申告を行った場合、資本の部の”元入金”の欄には、(昨年度の)元入金+青色申告特別控除前の所得金額+事業主借−事業主貸を今年度の元入金として入力します。
④とにかく取引を仕分けしていく
習うより慣れろ、ですね。これまで紹介した仕分けの基本的なパターンを抑えながら、細かいところは、理論や原理原則にそって、ネットで検索し、自分なりに考えて、解をみつけていく。それによって、簿記や仕分けへの理解も深まっていきます。
すべての口座を事業用ととらえて、あとで事業主貸・事業主借で調整する方法を採用するならば、カードや銀行通帳にあるものは例外なくすべて仕分けする、と考えてください。そう考えて、すべてを仕分けてしまうほうが、いろいろ考えるより結局は楽ですし、早いのです。

現金払いのものはあと回しにする(後述)
【よくある仕分けパターン】
・カードで事業用経費を支払った
・カードでプライベートな支出を支払った
・カードで一ヶ月分の利用金額が銀行口座から引き落とされた
・ATMで現金を引き落とした
・現金でプライベートな支出をした
・現金で経費を支出した
・口座間で資金を移動した
・ペイパル口座の未収金を引き出し、普通預金に移した などなど
⑤確定申告の事業年末の資産状況(リアルなバランスシート)を把握する

非常に基本的なことなのですが、何事も、ゴールのイメージを明確にしてから取り組むほうがよいことが多いです。確実にこうすればこうなる、という確定申告のようなプロジェクトの場合、特にそうです。
では、確定申告のゴールとは?
費用の発生主義に沿った仕分けのもと、きちんと現実に沿った貸借対照表と損益計算書を提出することですね。
損益計算書はクラウド会計を用いていれば、仕分けのルールさえきちんとしていれば特に問題になりません。後から修正も可能なので仕分けをしながら学んで気づいた点を直していきましょう。
損益計算書よりも、ここで意識してほしいのは、貸借対照表(バランスシート)です。貸借対照表(バランスシート)のリアルな自分の銀行残高をゴールと設定することです。
なので、あなたがまずやるべきは、あなたの銀行口座(すべてを事業用と捉えます)の、事業年末の時点での残高を正確に把握することです。
私の場合は、当座預金として楽天銀行、普通預金としてみずほ銀行、その他、入金や出金用にペイパルをもっていましたので、2019年1月〜12月の確定申告であれば、2019年12月31日時点のそれぞれの残高を正確に把握することからはじめました。
これらは通帳やネット銀行、ペイパルであれば振り返ることができますので、難しくはありません。ぜひそこからはじめましょう。
⑥仕分けの結果表示されてるバランスシートと実際の残高の数値のギャップを埋めていく

私も最初は、なんでこんなに大きなズレが生まれるのかと悩みましたが、ホワイトボードの左下の端に、その原因の仮説をたて、ひとつずつ、丁寧に検証していったところ、すぐにギャップが埋まっていきました。ギャップが埋まって解がわかるとかなり楽しいですね笑
だいたい、ギャップの原因になってくるのは以下の3点です。
①事業主貸の仕分けをしていない
プライベート利用の支出は事業主貸としてたてます。
e.g.楽しむための雑誌をカードで購入した。
事業主貸 1200円 未払い金 1200円 趣味の雑誌
その後、カード会社により、普通預金からの引き落としがあった。
未払金 1200円 普通預金 1200円
②事業主借の仕分けをしていない
事業と関係のない収入は事業主借です。
e.g.宝くじで5000円があたり、普通預金に振り込まれた。
普通預金 5000円 事業主借 5000円
③口座間の資金移動の仕分けをしていない
e.g. 当座預金から支払のために普通預金に10万円移した。
普通預金 10万円 当座預金 10万円
その後、普通預金から家賃 10万円が引き落とされた。
家賃地代 10万円 普通預金 10万円
⑦売掛金と未払金の計上(仕分け)

2019年の確定申告であれば、2019年1月1日〜12月31日が対象期間になるわけですが、青色申告の所得控除を受けるための複式簿記では発生主義といって、その取引が発生した時点での記帳をする必要があります。そのため、売上があがっても振り込みがまだ、というときや、購入はしたけれども実際はまだ払っていないという場合も、この期間内の取引として計上する必要があります。
具体的に問題となるのは、
11月や12月の売掛金や、12月の経費のカード支払で翌年の1月に口座から引き落としされる未払金でしょう。
これらはきちんと仕分けして、損益計算書や貸借対照表に反映させておく必要があります。
⑧現金支出の仕分け

仕分けの最後の仕上げは、カードにも銀行口座にもない取引を反映させていくことです。その際ポイントになるのは、
・いつの取引か
・事業経費かそうでないか
・クレジットカード払いかどうか
の3つです。
すでにクレジットカードの取引はデータ連携ですべて仕分けをしているので、仕分けをする必要があるものは、事業経費となるもので、かつ、現金払いのものということになります。これらを手動で仕分け入力していくことになります。
ちなみに、現金払いで事業経費とならないものは、残りの金額を事業主貸として資産にたてて、最後に調整することになります。
事業主貸 ●万円 現金 ●万円
あくまで事業に関する報告をするのが確定申告なので、
この点にあまりナーバスになる必要はありません。
いずれにせよ、上記のやり方をスムーズに進めるためには、レシート・領収書の管理を常日頃からきちんと行っておくことが大切です。以下を徹底しているとよいでしょう。
- 領収書・レシートは月ごとにまとめる
- 現金払いをしたものと、カードで支払ったものは区別しておく。
- クレジットカード払いの証明の紙は領収書と重複してしまう可能性があるので、別にしておく
- ペイパルでは基本、残高からの支払だけに設定し、クレジットカードの登録ははずしておく(ペイパルでの取引がややこしくなるため)
⑨所得税額、住民税額、国民健康保険料の計算

やはり個人事業主であれば、先々、自分にどのような支払が発生するのかを把握しておくことは大切です。なので、国税の所得税額が決定したら、同時に、その課税ベースを参考に算出される、住民税、ならびに国民健康保険料も計算しておくとよいでしょう。
(1)所得税額(国税)
基本的には次の計算式です。
収入−経費=青色申告特別控除前の所得金額①
①−青色申告特別控除額(65万)=所得金額②(確定申告B票第一表の⑨)
②−所得控除額=課税される所得金額③(確定申告B票第一表の㉖)
③✕税率−税額控除=納める税額④(確定申告B票第一表の㊼)
ここでポイントになるのは、所得控除と税額控除です。
所得控除は、基本的に基礎控除38万円というのがあるのですが、その他にも当てはまるものがあります。みなさん国民年金や健康保険料を払っていると思いますので、それらを社会保険料控除として計上します。あとは一般的な個人事業主の方なら、生命保険料控除、医療費控除、寄附金控除、配偶者控除、扶養控除あたりがとくに当てはまると思います。
税額控除というのは、計算された税金からひかれる額になりますので、非常に税金への影響が大きいです。ですから、そこに計上される対象の支出は、非常に限定されています。
たとえば、寄付金は、先の所得控除では広く、認定NPOへの寄付なども取り扱われますが、税額控除の対象となる寄付金は、国や地方自治体などの公的な組織のほか、住所のある都道府県や市町村が条例で指定した先への寄付金しか認められなかったりします。
(2)住民税の計算式
・B表の第一表の⑨は、青色申告特別控除をひいた額である点に注意。区役所などに健康保険や住民税の問い合わせをしても、その点を理解していない担当者がおおいので混乱のもとになるので注意です^^
・住民税の計算は以下の通り。
確定申告B票第一表の⑨−所得控除(基礎控除額は33万)=課税される所得金額
課税される所得金額✕10%−税額控除=納める税額
※東京都の場合、地方自治体や一定の団体等に対して2,000円を超える寄附金を支払った場合、個人住民税から税額控除することができます。
https://www.tax.metro.tokyo.lg.jp/kazei/kojin_ju.html#gaiyo_09
なお、後年課税なので、2019年の確定申告をもとに2020年6月から4回にわけて徴収されることに注意が必要です。6月末、8月末、10月末、1月末にわたって徴収があります。
(3)国民健康保険料の計算
これは介護保険などが関係しない40歳未満の方の例とはなりますが、
国民健康保険額の計算は以下の通りです。
【均等割】
40歳未満→1名✕52500円
【所得割】
(確定申告B票第一表の⑨-33万円)✕9.49%
均等割と所得割を合算して12でわると月々の額になります。
おわりに
ここまでやって、クラウド会計で、確定申告の基盤となる、損益計算書と貸借対照表を作成することができました。
マネーフォワードでは、光熱費や家賃地代の按分の機能もあって、とても便利です。
あとは確定申告を行っていくわけですが、その際、やはり税務署に並んで、というのは本当に時間がかかりますので、eTaxをおすすめします。ただ、eTaxもトラップ要素満載なので、そのやり方について、後日お届けしたいと思っています。